某社の都 NO.7
【この物語はフィクションです。】
少しでも早く帰りたいと、仕事を再開した渡丸だったが、吉田はまだコンペの事が頭にチラついているようで、今一仕事に集中できていない様子だった。
そんな夢みたいなことを考えても仕方いのにと呆れながら、何気に周りを見ると、先程まで、自分達以外にも数人いたはずのオフィスの中に、ほどんど人の気配が無くなっていた。
どうやら、二人が話している間に、他の社員は次々と仕事を終えて帰ってしまったようだ。
その時、出口の扉の辺りから、ギギギッと音が聞こえた。
タイムカードを差し込んだ時の機械音だ。
そして同時に「お疲れ様~」と帰って行く男性の背中が見えた。
最後の一人が部屋を出て、ついに社内には二人だけになってしまった。
これは本当にまずいぞと焦った渡丸が腕時計に目をやると、時計の針は23時27分を指している。
終電は0時5分なので、まだ30分以上あるが、帰り支度をして駅まで移動する時間を考えたら、そう余裕はない。
今日はもう仕事を切り上げようと思い、パソコンの電源を落とすため、今やっていた作業の保存を始める。
そして、開いていたいくつかのフォルダを閉じ、シャットダウンを行おうしたその時だった。
「ああっ!」という悲鳴が、部屋に響き渡った。
一瞬ビクッとした渡丸は、何事かと吉田を見ると、吉田は天を仰いで途方に暮れている。
何か大きなミスでもしたのかと思い「どうした!?」と尋ねると、吉田は青ざめた顔で「パソコンがフリーズしたっす」と返してきた。
魂の抜けたような吉田の表情に、渡丸も言葉を失う。
呆然としている吉田に、一度落ち着けと告げ、EnterキーやEscキーなどを連打させてみたが、相変わらず画面は固まったまま動かない。
渡丸は、仕方ないから強制終了する様に促す。
しかし、そんなことをしたら本当に今ままでやったことが無駄になると涙目の吉田に「落ち着け!パソコンってやつには回復機能が付いてるから、もしかしたら元に戻るかもしれないぞ!」と渡丸言うと、吉田は怪訝な表情をした。
現代のパソコンには、保存前に何らかの理由でフリーズしてしまったり、強制終了してしまった時に、必ずとは言えないが、今やっていた作業が復旧する機能が付いている。
しかし、この時代のパソコンに、そんな機能はまだ実装されていない。
つまり、強制終了するということは、保存していなかったものは全てやり直しになるわけだ。
だが渡丸は、本気でパソコンが復旧するかもしれないと思い「どっちにしたってこのままじゃどうにもならいだろ?復旧しなかったら手伝ってやるから、とにかくタクスマネージャーを立ち上げてだな…」と説明をし始めた。
その後、色々やっては見たが、やはりデータは元に戻らない。
そんな機能が付いていないのだから当然なのだが、渡丸はなぜ復旧しないのか分からず戸惑っていた。
未だ、吉田のパソコンのキーボードをカチャカチャ言わせている渡丸に「もういいっす。とにかく、大半の作業が保存できてたみたいなんで、最後にやってた資料だけ作り直すっす。」と吉田は腹を括った様子を見せる。
吉田がそう言うなら仕方ないと、手を止めたその時、渡丸はハッと気づく。
(しまった!復旧すると思ってたから手伝うって言ってしまった!!)
再び、腕時計に目をやると時計の針は23時40分を越えていた。
移動時間を考えたらもう会社を出ないといけない。
(まずい!終電に間に合わない!今日中に帰れなくなる!!)
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