某社の都 NO.6
【この物語はフィクションです。】
1990年代初頭、それまで約10年続いた経済バブルは崩壊。
不動産や株価は一気に下落し、企業や銀行は多額の負債を抱え、日本経済は長期にわたる低成長時代に突入した。
それぞれの企業により差はあるものの、それまで湯水のように使っていた経費は大幅に削減され、当然の如く人件費も削られることとなる。
社員のリストラはもちろん、正社員は新たに雇わず、人手の足りない分を非正規雇用のアルバイトや派遣社員で補うことが普通となって行った。
そのため、この時代に新卒で就職活動を行っていた学生たちにとっては、正社員で働くという、少し前までは極普通だったことが非常にハードルの高い事柄へと変化し、みな非正規で働かざる負えなくなったのである。
そんなバブル崩壊後から2005年頃までの冷え切った時代を後に『就職氷河期』と呼ぶようになり、非正規雇用を余儀なくされ、景気が上向き始めてからもキャリアが無いことを理由に、なかなか正社員として雇用されない人たちの事を『就職氷河期世代』と呼ぶようになった。
流行語大賞にまでなった言葉だが、吉田はそう言った社会情勢などには疎く、本当に就職氷河期という言葉を知らなかったので渡丸に聞き返したのだが、なぜか渡丸自身もよくわかっていない様子で目を丸くしている。
「言った本人が分からないってどういうことっすか?」
怪訝な表情の吉田に対して「いや、口をついて出たんだけど…それってなんだっけ?」と戸惑う。
その時、渡丸の耳に、かすかに何かの音が聞こえた。
ブザーやサイレンの様な単調な繰り返し音で、ホンの数秒で音は止む。
「あれ!?今なんか聞こえなかったか?」と問いかけたが、吉田は聞いていないという。
渡丸は、気のせいかと受け流し話を戻すことにした。
「とにかくだ、大手で活躍していたほどの山形さんですら。あっけなく審査落ちしたコンペだぞ!俺達みたいな凡人の企画が通るわけがないだろ!?」
これで諦めるだろうと思っていたのだが、吉田は「それは違うんすよ!このコンペは、優秀な企画かどうかは関係ないんす。審査基準は、どんだけ斬新なアイディアを出せるかってのが肝らしいんすよ!!」とニヤリと笑って見せる。
その後、実は何のアイディアも浮かんでいないと笑う吉田に、渡丸は呆れて、再び自分のデスクに向き直り「俺は出世するより、今は1分でも早く仕事を片付けて、1秒でも早く家に帰って寝たいよ。」とつぶやいた。
————————————————-

