某社の都 NO.3

【この物語はフィクションです。】

「ふ~う。ようやく一段落したな。」
渡丸はそう言うと、座ったまま両手を上げ、背もたれに体を預けて背伸びをした。
その様子を見て、向かいの席に座っている山形が腕時計を確認し「おっと!もうこんな時間か!?」とつぶやくと、慌てて帰り支度を始めた。

山形は渡丸の5年先輩で、面倒見がよく、他の後輩からも好かれている。
この会社には勿体ないぐらいに仕事が出来、上司からの覚えもいい男だ。
帰り支度をしている山形の様子を見つけて、渡丸の2年後輩の吉田が声を上げた。
「え~えぇ!山形さん本当に帰るんっすか!?いいな~!俺なんか、こんなに仕事抱えてるのに…」と言って、資料棚から取ってきた大量のファイルを渡丸の隣にある自分の机の上にドンと置く。
手伝ってほしそうな吉田に「自分のことは自分でやれって、おばあちゃんに教わらなかったか?」と言いながら、山形は山済みのファイルから1つの資料を手に取り、表紙を開いて何枚かパラパラとページをめくる。
手早く数ページめくったところで「この件なら、こんな資料を漁るより、テンプレートをコピーして貼り付けてった方が早いぞ。さっさとやってしまえ!」とファイルを返し「おつかれ」と、颯爽と部屋を出て行った。
吉田は、山形を見送った後、その手があったかとばかりにパソコンに向かい、テンプレートを探して入力作業を再開させた。

山形が帰ってから少し経った頃、パソコンのキーボードを叩きながら、吉田が渡丸に「先輩、給料って幾らもらってます?」と話しかけてきた。
唐突過ぎる質問に驚いた渡丸が「はぁ?」と返すと「この会社、こんなに働かせて給料安すぎません!?」と、入力作業を止めて吉田が詰め寄る。
俺に言われてもと思った渡丸だったが、同時に確かにそうだけどという気持ちがよぎった。
「僕この間、街で学生時代の同級生を偶然見かけたんす!そいつ見るからに金持ちって感じのスーツを着てて、高級ブランドの店に美人な女性と入って行ったんすよ!気になって中を覗いたら、高そうな商品をあれもこれも買い漁ってて…しばらくして店を出てきたら、めっちゃ高そうなスポーツカーに乗って、去って行ったんす!!あいつ、学生の時はもっと地味だったんすよ!僕と同じタイプだったのに…」
少しスネた表情をしている吉田に「それでお前も金持ちになりたいのか?」と渡丸が質問すると「違います!」と返事が返ってきた。
じゃあ、なんだと問いかけると「僕もあんな美人の彼女が欲しいんすッ!」と返され、思わず「そこかよ!!」と渡丸は突っ込んでしまった。
「やっぱ給料っすかね!年収っすかね!お金さえ稼げれば、僕もあんな美女と付き合えるっすかね!?」
真面目にそんなことを聞いてくる吉田にあきれると同時に、なんだか少しかわいくも感じてしまう。
「落ち着けよ!男は金だけじゃないだろ?優しさとか、誠実さとかも大事なんじゃないか?それと、清潔感は重要だ!髪はボサボサでよれよれのシャツを着てるとか、無精髭が伸びてるとかはダメだ。不潔な格好をしないように気を付けるのも重要だって、何かの雑誌に書いてあったぞ。」
「へ~。先輩もそんな雑誌読むんすねぇ~。」
意地悪な笑みを浮かべる吉田に「俺のことは良いんだよ!」と誤魔化して話を進める。
「山形さんを見てみろ!うちで働いている以上、贅沢が出来るほどの給料はもらってないと思うけど、奥さんはめちゃくちゃ美人だ!頼り甲斐があって、聡明で、いつもビシッとしたスーツを着こなしていて清潔感も抜群。誰が見ても出来る人って感じだろ?きっとそこに奥さんは惚れたんじゃないかな。」
そう言って自分で「うんうん」とうなずく渡丸に「それもあるでしょうけど、山形さんはハンサムだからなぁ~。そこにまず惚れたんじゃあないっすかね?」と本質を突いた回答をよこす。
「ま、まあそれは…もちろんあるだけど。」
それはもちろんその通りなのだが、あえて言わなかった核心を突かれてしまい、渡丸は何も言えなくなってしまう。
「どんなに優しくても、清潔感があっても、ハンサムじゃなきゃアウトオブ眼中(※)なんすよ!でも、せめて年収が高ければ、合コンとかでも有利だと思うんす!」(※当時の若者言葉。「眼中にない」「視界にも入らない」「論外」と言った意味)
あきれた様子で「合コンで女子が惚れるほどの年収って幾らだよ?一千万ぐらいか??ないないない。この会社じゃ絶対そんな年収もらえないぞ。」と渡丸。
すると、何とかなる方法があると吉田が言い出す。
「五星グループのコンペに出て、上を目指すんすよ!」
渡丸は、何を言っているのか分からず首を傾げた。
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