某社の都 NO.1

【この物語はフィクションです。】

-9月の終わりごろ-
もうすぐ10月を迎えようとしているのに、まだ秋の気配は訪れず、日中は太陽がサンサンと輝いており、気温も30℃を超える日が続いていた。
このところ晴天が続いていたせいか、空気も乾燥し、風も熱を帯びていた。
しかし、今日は、昼過ぎに空が曇り始め、ほんのわずかな時間だったが小雨が降ったためか、気温が少し下がり、過ごしやすい夕方となった。

そんな夕刻に、一人の男がマンションのベランダに立っていた。
50代後半と思われる白髪が混ざり始めた短髪の男だ。
くたびれた白いワイシャツに、濃いグレーの上下のスーツを着込み、仕事帰りの会社員と言った格好をしている。
ベランダの手すりに右肘をつき、その拳の上に自分のアゴを乗せ、もたれかかりながら、外の景色をボーッと眺めていた。

久しぶりに過ごしやすい夕方となり、風に誘われるように部屋から出てきたのだ。
ほほを撫でる風が、僅かに湿気を帯びており心地良い。
眼前には、今まさに沈もうとしている太陽が赤く燃え上がり、空を深紅に染めている。
映像や写真でしか見たこともないぐらいの真っ赤な空だ。
いつもの街がまるで別世界のようで「このまま、自分の体も夕日の中に溶けてしまいたい。」と思わせるほど、幻想的な景色だった。

ただ、一つ。
この光景を台無しにするものがあった。

それは、どこからともなく、街中に響き渡る ゴォーン…!ゴーン…!!という音だ。
この街では、いつも重低音の金属音がこだましている。
「いつになったら、終わるんだ。」と男はつぶやいた。
それは、街のどこかで行われている建設現場から聞こえてくる音で、一定にリズムを刻むようにゴォーン!ゴーン!!と辺り一帯に音を響かせている。
しばらくその音を聞いていると、気分が悪くなり、男は部屋へと戻って行った。

工事は、もう何年も続いている。
毎年、どこかで巨大な建物が建設されているため、正確には何十年も鳴り響いている音と言ってもいい。
高層マンションが次々と建てられ、古いビルが次々と解体されていく。
それが、この街の日常模様なのだった。

部屋に戻った男は、エアコンのリモコンに手を伸ばす。
窓を開けていれば涼しい風も入ってくるが、あの音のせいでそうもいかない。
閉め切っているとさすがに室温が高くなるため、仕方なくリモコンのスイッチを押す。
すると同時に、使い古されたエアコンんが小さくうなりを上げ動き始める。
ただ、なかなか風が出ない。
3分ほどして、ゴウゴウとモーター音を鳴らしながらようやく風が吹き出した。
「こいつももう、寿命かな。…俺と同じだ。」
そう言って、男はフッと笑った。

男は、そのままの格好でベッドに横になった。
天井を眺めながらつぶやく。
「俺はいつになったら、ここから抜け出せるんだ。このまま俺は終わるのか?そもそもなんでこんなことになったんだ。」
男は思いにふけり始めた。

そして、時間は32年前に遡る。

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